#12 商社一般職からフリーのライターへ|海外移住と転職を叶えた、自分に正直な生き方
- careermentorjapan
- 3月30日
- 読了時間: 9分
更新日:5月4日

上田 紋加さん プロフィール
早稲田大学国際教養学部を卒業後、総合商社(三井物産)へ一般職として新卒入社。のちに、クーリエ・ジャポンの雑誌編集者へ。学生時代から惹かれていたスペインへ移住を決め、現在はバルセロナに在住しながらフリーのライターとして日本のメディアへ寄稿を続ける。
好きな地で、好きな語学や文化を深めることが仕事につながることを、「こんなに楽しい仕事はない」と語る上田さん。一方で、フリーのライターとして働くことの大変な側面も含め、思いを率直に答えていただきました。
「息が詰まる」仕事で始まったキャリア
ーまず、新卒のお仕事の経験について、教えて頂けますか。
2年弱、三井物産で業務職をしていました。仕事内容は、船積書類の作成やスケジュール調整、支払い処理など、事務作業全般です。
ーその後ライターへとキャリアチェンジされます。大きな変化だと思いますが、どのように決意されましたか。
正直にいってしまうと、最初から業務職として働くことは望んでいませんでした。物産も含め、ほかの商社や海運会社の総合職も受けていましたが、すべて落ちてしまったんです。選択肢がほかになかったので、気が進まないまま入社しました。当時、とくに私がいた部署は非常にドメスティックなところで、仕事内容だけでなく、そこの空気も自分にあっていなかった。なので、2年目になった頃には転職サイトに登録したり、セルバンテス文化センターの求人ページをチェックしたりしていました。大学時代にスペインに留学したことがあったので、ずっとスペインに戻りたい、もしくはスペイン語を使う仕事がしたいと思っていたからです。メキシコにある日本の自動車メーカーの通訳にも受かっていたので、一歩間違えればメキシコに行っていたかもしれないです。あまりにも条件が悪かったので思いとどまりましたが、それほど自分にとっては前職が苦痛だったんです。
そんなとき、愛読していた講談社「クーリエ・ジャポン」(現在はウェブのみですが、2016年まで紙媒体でした)が、業務委託契約で編集者を募集しているのを見つけました。クーリエは、世界のメディアの記事を厳選して、編集・翻訳して載せている雑誌です。息が詰まるような生活をしていた当時の私にとって世界と自分を繋いでくれる、架け橋のような存在でした。そんな憧れのメディアで自分が働くことができるなんて思っていなかったので、編集長から採用メールが届いたときは、すでに自分の心は決まっていました。もちろん、安定を捨てることになったわけですが、まだ24歳くらいだったのでそこまで深くも考えていなかったのかもしれません。
掴み取った新たな道
ーライターのお仕事内容について教えて頂けますか。
契約体系は「業務委託」つまりフリーランスなので、複数のメディアの掛け持ちがOKです。とはいえ、日本で編集部に通っていたときはそんな余裕はまったくなかったので、クーリエだけで働いていました。現在は、ほかのメディアに書くこともありますが、主な仕事は変わらずクーリエ・ジャポンです。
クーリエでの主な仕事内容は、海外メディアから記事を選び、要約を作って週1回の会議で提出することです。週に3本担当枠があり、内容は毎週異なります。たとえば、長文の翻訳記事を編集する、自分で複数メディアを読んでまとめる、取材して執筆する、著者にお願いして書いてもらった原稿を編集する、などさまざまです。また、取材や原稿を依頼する相手、取り扱いたいテーマなども自分で考えて提案します。さらに、「EXPAT by COURRiER Japon」という海外在住の日本人に情報発信をしてもらうブログプラットフォームの管理もしています。
ほかの媒体では、自分で企画を考えて提案することもあれば、募集がかかっているところに応募することもあります。その場合は、スペインもしくはバルセロナの現地ネタです。
ー日々の働き方について教えて頂けますか。
基本的にはやることさえやっていれば、勤務時間やどこで働いているかなど、うるさく言われることはありません。現在は、バルセロナからリモートで仕事をしているので、日本で働いていた頃よりさらに自由です。私の場合は朝のほうが頭が働くので、編集や執筆作業は朝に、読んだり企画を考えたりするのは午後にまわします。基本的に仕事をしているのは9~18時くらいまでですが、かなり不規則です。また、週末は休むようにしていますが、やることを作ろうと思えば際限なくできてしまう職業でもあるので、読んだり書いたり、面白いネタを探したり、なにかと仕事と関係あることをしているかもしれません。

キャリアとしての「ライター」
―ライターとして大切なスキルについて教えてください。
編集者として一番大切なのは、企画力と面白いものや人にどれだけ敏感になれるか、ということではないでしょうか。ライターとしては、人の話を聞く力、当たり前ですがわかりやすい日本語で読者に伝えられること。そして、自分が知らないことは「知らない」と言えて、学ぶ姿勢を持ち続けること。とはいえ、現在もまだまだなので、偉そうなことは言えません。ですが、「記事は『自分』というフィルターを通して世に出るのだから、その人が面白い人間でなければ良いものはできない」という当時の編集長に言われた言葉を思い出して身を引き締めるようにしています。
―これまでのキャリアで満足していることと、まだ満足していない点があればお伺いしたいです。
新卒で入社した職場で唯一よかったと思えるのは、現在も仲良くしている同期たちと出会えたことです。そして、日本の商社という職場を知ることができたのも、いまになって思えば、良い経験だったと思います。
大卒からそのまま大手出版社に入るのは狭き門です。私は、最初から無理だと思って、新卒では受けることすらしませんでした。それが、こうした形で編集者・ライターとしてキャリアを築くことができたことには、とても満足しています。さらに、フリーランスという立場にもかかわらず、クーリエの編集部では編集から取材の仕方、企画の立て方まですべてを先輩方が辛抱強く、丁寧に、そして厳しく叩き込んでくれたのは、幸運以外のなにものでもなかったと痛感しています。また、自分の好きな語学を活かしながら、自分の好きなこと(映画、本、旅行、グルメ、アートなどなど)を深めることが仕事に繋がり、それでお金をもらえるなんて、こんなに楽しい仕事はないとも思っています。
一方で、この仕事がなくなってしまったらバルセロナで自分は一体何ができるのか、という不安はあります。これまで自由に好きなことを追い求めてきたので、いきなりオフィスに戻って事務仕事というのはすごく苦痛。それに、特別なビジネススキルがあるわけでもない。将来が約束されていない、というのは辛いところですが、いま取り組むべきことに集中するようにしています。
―今後のキャリアについて現時点で考えていることがあればお伺いできますか。
バルセロナにきてもクーリエの仕事を継続させてもらえていることは、非常にありがたいことです。とはいえ、この状況がいつまで続くかわかりません。なので、近い将来でいえば、取材経験を積んだり、興味のある分野に関する知識を深めたり、さまざまな分野で活躍される方と関わったり、新たな分野を開拓したりなど、知識と経験を増やしていきたいと思っています。
一方で、いまカタルーニャ州公認の観光ガイドの資格の取得も目指しています。まだカタルーニャ語を勉強中なので取得までにはもう少し時間がかかりそうですが、将来ここに住み続けるのであれば現地で手に職つけておいたほうが安心だし、現地通貨での収入を得る術がひとつでもあったほうがいいと思っているからです。すでにガイドの仕事はしていて、現地の歴史やガウディやピカソなど文化に関する知識は、編集者・ライターの仕事にも活かされていると思います。
メッセージ
ーフリーランス勤務やライターのお仕事に興味のある方へ、アドバイスがあればお願いします。
私は自分が本当に好きなことでないと、努力をするということがまったくできない人間ですが、逆に好きなことなら苦しくても頑張れるみたいです。そうした“ワガママ”な人にフリーランスは向いていると思います。
出版業界で働きたい場合は、新卒で出版社を目指すのもありだし、契約社員から試験を受けて社員になってもいい。別のメディアへ転職した方も、編集部で経験を積んでからライターとして活躍されている方も知っています。
さまざまな道があるので正解は人によって違いますが、もし経験のない方がライターを目指すのであれば、まずは編集の現場を経験することをお勧めします。(最初からフリーのライターで活躍している人も、もちろんいます。)というのも、いまは誰もが発信できるので、どんな人でも「ライター」と名乗れる時代。乱暴な言い方ですが、自称ライターで溢れているのです。また、誰でも書けるような1記事あたりの単価はお世辞にも良いとはいえません。
編集部での経験は自分の財産にもなるし、ライターになったときの差別化にもなると思います。紙・オンラインともに雑誌がどのようなプロセスを踏んでできあがるのか、編集者は何を求めているのかを身を持って知ることができます。そして、メディア側の人間だからこそできる経験があります。たとえば、著名人にインタビューさせてもらったり、普段は入れてもらえないような場所を取材させてもらったりなどです。こういった経験がライターとしての仕事に貢献してくれると思います。
ーヨーロッパへの移住に興味はあるけどどうしたら良いか分からない方へ、アドバイスがあればお願いします。
ヨーロッパ移住に関しては、国によってビザ制度が異なるので一概にはいえませんが、私の場合は2017年にスペインと日本のワーキングホリデー制度が開始したので、それに飛びつきました。海外に行きたいけれど、どうしていいかわからないという人は、ワーホリでも留学でもいいので、とりあえずその国に一定期間住んでみるべきだと思います。「現地に行ったらなんとかなるというのは甘い」という意見をネットで見かけますが、私は「現地に行かないことには、なんとかなるものも、なんにもならない」と思っています。自分は何をしたいのか、どこに住みたいのか、その軸を定めて進んでいけば、きっと道は拓けるはずです。